1999年から、格付投資情報センター(R&I)により、わが国においても地方債の格付け情報が開示されている。地方債の格付けを行うに際して、R&Iは経済力、財政状態、債務の状況の3つの観点からそれぞれ財務指標を選択し、財務ランクおよび格付けを決定している(R&I[1999])。 しかしながら、これらの指標をどのように組み合わせてウェイト付けし、財務ランクや格付けを決定するかを示すモデルは格付け機関からは公表されていない。そこで若林[2006]では、いかなる財務指標が地方債の信用リスクを決定付ける要因となりうるのか分析し、オリジナルのモデルを提示している。 結果は信用リスクの決定要因について企業会計においてキャッシュフロー・データを用いた分析結果に首尾一貫することを示している。1999年度から地方債で新たに開示された貸借対照表に基づく指標は、流動比率のみ決定要因とみなすことができた。さらに、オリジナルモデルを用いたランキングの結果は、格付けに関して宮崎県が一位を占め、財務ランクについては鳥取県が一位であった。この結果は直感と反するが、収益力の低い自治体ほど交付税など国からの麗澤な補助金で信用リスクが低下している現実を描写しているといえよう。たとえば、日経新聞の4月7目付けの調査結果によると、一人当たり行政サービス額の二位に島根がランクインしていることからも明らかなように、若林[2006]におけるモデルに基づくとランキングは、各自治体の経済的実質を反映しているといえよう。 次に会計情報と格付けの関連性を考える上で、パブリック・セクターにおける会計情報の開示が今後どのような方向で発展していくかを検討するうえで、試金石になると思われる業績報告のあり方について検討しているのが若林[2005]である。さらに、格付けの要因として、リスク情報に着目した場合、市場利子率など、マーケットベースの研究も可能性として考えられる。そこで、音川・若林[2005]で、マーケットベースの方法論を検討している。
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