研究概要 |
米国では,市場における次期期待利益の代理変数として,複数のアナリスト予想の平均であるコンセンサス予想を用いるのが一般的であるのに対し,我が国では,大きく分類して,米国同様のI/B/E/Sコンセンサス予想,出版社系アナリストの単独予想である東洋経済予想,そして経営者自らが公表する経営者予想の三種類の予想利益が利用可能である.本年度における研究では,これら三種類の予想の精度と価値関連性を調査することによって,三予想の優劣および市場の三予想利用度を比較検証している. 結果は,予想精度に関しては,I/B/E/S予想は東洋経済予想や経営者予想よりも精度が劣り,東洋経済予想と経営者予想では精度に大差は見られなかった.またこの結果は,サンプルを年度別,業種別,I/B/E/Sアナリスト人数別,規模別などで分割しても同じであった.次に,市場が三予想のどの予想を用いているのかを予想利益の価値関連性という観点から検証したところ,I/B/E/S予想の価値関連性が最も低く,東洋経済予想と経営者予想の価値関連性には有意な差が見られなかった. このことから,我が国において利用可能な三予想利益の中では,東洋経済予想と経営者予想の精度が同程度で高くてI/B/E/S予想の精度が最も低く,そして市場はそれら精度の高い予想を正しく識別して株価に織り込んでいるといえる.この結果は,米国では一般的であるコンセンサス予想の使用が我が国においては不適切であることを示すものであり,また経営者予想がPublic Informationとして無償で入手可能な我が国における,I/B/E/S予想,東洋経済予想といった有償のアナリスト予想の価値に疑問を生じさせるものである.
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