本年度の研究では、株式所有構造が企業の行動にどのような影響を与えるかを、会計上の業績の側面から跡付けた。とりわけ、時系列でみた業績の推移から、企業がどの業績指標に注目しているのかを明らかにした。ここでは、ガバナンスの主要なプレーヤーとして、事業法人、金融機関および外国人投資家の3者を特定した。事業法人の持ち株比率が高い場合、営業上の取引関係を安定させる効果によって、売上や売上原価の水準がより安定すると考えられる。他方、金融機関の持ち株が多ければ、利払いの遂行能力に対するフォーカスが強まるため、企業は経常赤字を回避する姿勢を強く打ち出すことが予想される。また、外国人投資家の持ち株比率が高い企業では、企業価値の向上に向けた圧力が強まるため、利益水準そのもののボトムアップが図られるであろう。このような仮説をもとに本研究では、売上高、売上原価、営業利益および経常利益の時系列でみた自己回帰係数をはじめ4つの業績指標を設定し、上記の3者による持ち株比率との関連を検証し、仮説と整合する推定結果を得た。 それとともに、さまざまな業績指標が株価にどう結びつくかに関する理論モデルについて仔細に検討した。なかでもOhlsonモデルは会計情報と株価との関連を理論的に明らかにしたモデルであるが、重要な前提となる業績の時系列変動の線型性が妥当性をもつための必要条件などについては、あまり理解が進んでいなかった。そこで本研究では、株式所有構造が資本市場に与える影響を解明する前段階として、とりわけエージェンシー問題が会計情報と株価との関係にどのような歪みをもたらすのか検証した。その結果、エージェンシー・コストが存在するもとでは、配当の無関連性命題が成立しなくなり、業績指標の持続係数にばらつきが生じる可能性が示された。
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