研究概要 |
平成17年度は、負の暖簾の経済的発生要因の理論的考察、ストック情報としての負の暖簾の資本市場における情報有用性、ならびにヨーロッパ(主にロンドン)において負の暖簾に関する会計基準として詳細な規定を置いているイギリス会計基準の設定過程に関する資料収集を実施した。 調査結果は以下の通りである。 1,一般に「負の暖簾」と呼ばれる企業結合時に生じる貸方項目は、必ずしも(1)負の超過利益の受入にかかるものだけではなく、その他に(2)ターゲット企業の割安購入、(3)識別可能資産の減損兆候、(4)将来における事業組織改善の必要性という要因が考えられた。昨今のわが国の経済状況を考慮すると、(3)(4)のケースを要因として負の暖簾が多く発生しているのではないかと考察された。この研究結果については福井工業大学研究紀要第36号にて発表した。 2,わが国の連結会計基準では負の暖簾は正の暖簾の左右対称の会計処理を求められているが、正の暖簾に対する基準設定の過程に準拠すると、負の暖簾の発生要因は1,における(1)であると捉えられていると考えられる。しかし、1,研究結果と照合すると、経済的事実と会計数値にズレが生じていることが考えられる。そこで、現行連結会計基準に基づく会計数値に対して、会計情報の主たる利用者である資本市場は、どのような評価を与えているのか、株価データおよび財務データをもとに実証的に分析を行なった。この研究結果については日本会計研究学会第64号大会にて発表した。 3,イギリスにおける暖簾に関する会計基準Financial Reporting Standard No.10(FRS10)は、負の暖簾の会計処理について極めて詳細な規定を置いている。FRS10の設定過程における理論的考察に加え、企業、公認会計士、情報利用者からの会計基準改正に対する意見を収集するためロンドンにて調査を行なった。その調査、分析結果を平成18年度中に報告予定である。
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