合衆国におけるアファーマティヴ・アクションの現状について、実証的な研究をおこなった。合衆国において特に人種・エスニシティの多様なニューヨークの各大学のアファーマティヴ・アクションの実施状況を、各大学発行の資料、およびインタビュー調査委によって明らかにしてきた。導入当初から激しいイデオロギー対立に晒されたアファーマティヴ・アクションは、いくつかの重要な最高裁判決が出される中で、次第に制度化されてきた。現在では、アファーマティヴ・アクション自体を絶対的に否定する大学は、見受けられず、「機会の平等」と「結果の平等」との狭間で、両者のバランスを保ちながら、柔軟に運用されている現状が明らかになった。 また本研究では、実際の制の実施状況と対照させながら、アファーマティヴ・アクションをめぐるイデオロギー対立の変遷を考察した。一般にリベラルは、アファーマティヴ・アクションを支持し、保守派(新保守主義者)は、「逆差別」として批判するという構図で捉えられてきた。しかし実際に「新保守主義者」とよばれる知識人たちの言説を分析すれば、「割当quota」を「機会の平等」の侵害という観点から批判しているのみであって、1970年代からより柔軟な制度の運用を主張していたのであった。具体的には、ダニエル・ベル、ネイサン・グレイザー、ダニエル・P・モイニハンの言説を中心に考察した。さらに彼らに「新保守主義者」ピーター・L・バーガーを加え、「新保守主義者」の人種間経済格差問題への言説を分析した結果、格差是正のためには、各コミュニティにおける自発的な援助集団の活性化が必要であるという、「社会関係資本」論へとつながる視点を析出した。
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