本研究の目的は、秋田県角館の武家屋敷の町並みが、どのような社会的・文化的背景から角館のシンボルとして、さらには秋田県を代表する観光地として整備され、位置づけられるようになったのかを、建築や景観についての考え方の変遷、観光の変化とともに、今日の観光社会学や都市空間論についての研究成果を用いながら明らかにすることにある。 平成17年度は、この研究の基礎となる角館と秋田における観光に関する資料、角館の歴史に関する資料、角館の歴史的環境の保存・修景に関する資料、武家屋敷とともに角館の観光の目玉であるシダレザクラと檜木内川堤のサクラの保存管理計画に関する資料などの収集を行った。角館の武家屋敷は「生きたままの保存」として、住民の「近代的で快適な生活」と「伝統的町並み」の調和両立のもとでの保存・修景することがこれまで目指されてきたが、そうした中で、近代と伝統の矛盾や、生活の場としての町並みと観光の対象としての町並みとの矛盾、こうしたことから生じる「伝統」の立脚する時代のあいまさと恣意性などの問題が明らかになった(これらの点については来年度論文としてまとめる)。 本年度は、以上の角館に関する資料の収集・分析の他に、観光社会学や都市空間論、また観光とまなざしの問題にかかわる写真論などについての研究も行った。この成果として、社会学と地理学における「空間論的転回」の代表的な論者の一人であるデヴィッド・ハーヴェイの都市空間論についての研究を行い、まとめた。また角館は、昭和51年に「重要伝統的建造物群保存地区」選定されたが、これと同時期に、角館とは歴史的背景や都市の規模などが異なるとはいえ、同じように景観と環境、伝統、歴史、観光とのかかわりにおいて都市景観の整備が行われた宮城県仙台市に関する著書をまとめた。本年度の研究成果の一部であるこれら2つの研究は、ともに平成18年度に刊行予定である。
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