研究概要 |
本研究の主たる目的は,経済危機後の韓国社会における労働市場の変化とそれが社会階層構造にもたらしている影響を比較社会学的観点から考察していくことにある.本年度はこのために,(1)経済危機以前の韓国社会における労働市場と社会階層の構造的特徴について再確認し,(2)その結果をふまえた上で,経済危機後の労働市場の変化に関して包括的な検討を行うことを試みた. まず,(1)「経済危機以前の労働市場と社会階層の構造的特徴の再検討」に関しては,これまで行ってきた研究を発展させる形でいくつかの研究成果を公表した.これらにおいては,1980年代から90年代初頭の韓国企業における人事・採用慣行の特徴と,それが個人の地位達成過程に与える影響を,被雇用者の学歴効果にも着目しながら検討しており,さらに,ひとびとの地位達成過程を大きく規定する「職業意識」の韓国的特徴を比較の観点から明らかにしている. (2)「経済危機後の労働市場の変化に関する包括的検討」に関しては,以上の研究成果を考察の準拠点としながら,今後検討すべき問題の精緻化と,関連する資料収集および予備的分析を行った.具体的には,本年度6月に韓国調査を行い,近年の非正規雇用の増大傾向と都市自営業者の経営実態に関してヒアリング調査,ならびに文献・データ収集を行うと共に,近年の労働市場の変化を捉える上でもっとも有益な資料である韓国労働パネル調査(KLIPS)データを利用しながら,経済危機後の韓国における労働移動パターンと,移動がもたらす社会経済的地位の変化を実証的に解明するという作業に着手している. 以上は,当初の研究計画とほぼ合致するものであり,本研究は順調に進んでいるものと評価されうる.
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