本研究の目的は、経済危機後の韓国社会における労働市場の変化と、それが社会階層構造にもたらしている影響を比較の観点から考察していくことにある。最終年度である本年度には、(1)経済危機後の雇用の柔軟化、(2)都市自営業部門における雇用機会、(3)労働市場構造の変化がもたらす社会階層構造へのインパクト、に関する研究を進め、さらに三年間の成果をふまえつつ社会階層の日韓比較を行うことで本研究を総括した。 まず、経済危機後の雇用の柔軟化に関しては、引き続き韓国における非正規雇用の実態把握につとめ、日本との比較の観点からその特徴を明らかにした。さらにKLIPSデータを用いて、非正規雇用への参入とそこからの離脱に影響を与える社会経済的要因の検討を行った。 さらに「雇用のバッファ」としての機能を持つ都市自営業部門の内的構造を、この部門への参入要因と参入がもたらす所得の変化の検討を通じて考察した。 また、韓国労働市場の特徴とその変容が社会階層構造に与えている影響を、2005年SSM調査データなどを用いて検討し、(a)経済危機後の労働市場の構造変化は「社会的弱者」に対してより大きなインパクトを与えており、これが階層の両極化を導く動因となっている可能性が高いこと、(b)近年韓国では企業間格差の拡大が進み、被雇用者の従業先規模が個人の階層的地位を左右する要因となりつつあること、などを示した。 雇用慣行をはじめとする社会的コンテクストを十分にふまえた上で、マクロな社会調査データを用いて階層分析を行うという本研究の試みは他に例が少なく、韓国社会の理解、あるいはグローバル化が社会階層に及ぼす影響の理解のために大きな重要性を持つ。さらに本研究は今後の日韓比較の参照点としての意義をも持ち、本研究の成果をふまえつつ日韓比較を行うことで、日本の階層構造の特徴を新たな視点から捉えなおすことが可能になるであろう。
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