初年度はフィールドワークの開始と問題探査を行なった。パーキンソン病友の会富山県支部にアクセスをとり、交流会、役員会、イベント(日帰り旅行)等に計11回の参加を行い、会員の方々と友好的な関係を築くことができた。 交流会を中心とした場で病いがいかに語られるのかが出発点となるリサーチクエスチョンであったが、調査の結果、人々の語りはM.Bury(2001)のいう"contingent narrative"に含まれるもののように思われ、筆者が過去に調査したアルコホリズムや死別体験のグループに比べると、ナラティヴの共同体としはそれほど成熟していないように見受けられた。しかし、このことは、パーキンソン病のセルフヘルプ・グループの可能性を否定するものではなく、それどころか、「回復の物語(the restitution narrative)」(A.Frank)への羨望をある程度抱えながらの自己物語形成がいかにして可能なのか、というきわめて重要な問いの所在を示している。 このようにして本研究は、初年度の成果として、パーキンソン病セルフヘルプ・グループが持つ社会学的テーマと重要性をはっきりと認識することができた。来年度は、このテーマについてさらに考えを進めるために、個人の自己物語に関するインタヴュー調査にウェイトを移す。既に、ある交流会で「病いと共存しつつ戦う」物語を語ろうとしていた参加者にインタヴュー調査を申し込み、快諾いただいている。また、富山県以外のパーキンソン病友の会、とりわけ大都市圏のグループにもアクセスを試みて、ナラティヴの共同体としての富山県支部との質的差異の有無にも注目してゆく予定である。
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