本研究の研究実績と知見の一部は次の通りである。 (1)まず、前年度に引き続き、市町村合併に関する学術文献および先行調査例のサーベイを継続し、分析モデルの改善をはかった。具体的には、従来モデルに取り入れていた個別市町村の政治的財政的要因や通勤・通学ネットワークの完結性といったネットワーク要因だけではなく、近隣の市町村との相対的位置といった構造合理性要因が合併協議会の設置にいたる重要な要因であると考えられた。その他、地方交付税の削減がいわば時間要因として作用していることも考慮された。 (2)前年度において市町村合併の動向についてのデータベースの構築を行ったが、今年度の新規情報についてこれを補完した。合併に関連したホームページ資料を収集した。この作業の一部を研究補助員に依頼した。また、民間データベース(日経テレコン21、Dファイル)を利用して、合併に関連する新聞記事資料を収集した。なお、いずれに関しても現存する資料は膨大であり、その整理作業の一部を研究補助員に依頼した。 (3)これまでの作業によって構築されたデータベースを用いて、分析モデルのテストを行った。その結果、通勤・通学ネットワークの完結性といった社会ネットワーク要因がフレームとして作用するとともに、近隣の市町村との相対的位置といった構造合理性要因が重要であることがわかった。とくに財政的危機状況にある市町村の存在は特異点として周辺町村の動向に影響を与えている。ここではゲーム論的がアプローチも可能であることが示唆された。 (4)特徴的な合併事例として、島嶼部との吸収合併を行った広島県呉市の実地調査を行った。島嶼間の架橋によるネットワークの促進がここでも大きな要因となっている。 (5)本研究は市町村合併をめぐる意思決定プロセスにおける構造的要因を強調している。この成果は今後の学会において公表の予定である。
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