本研究は、空間へ拘束される状態・意識と空間から自由な状態・意識が、同じ都市という空間に住む者の間で、また同じ個人の中でも並在することへ注目し、両者が個々人の当事者視点にとってどのように成立し、体験され、対処されるかを、聞き取りや質問紙調査のデータから切り出すとともに、全体としての都市という制度の重層的な理解を試みている。具体的には下記のA・B2つのタイプのフィールド事例を追っており、本年度は以下の研究を行った。 (A)同一人物の中で、ライフステージに応じて空間への拘束に変化が生ずるという視点から、都市の中で高齢になり介護が必要になった時点に着目し、「(東京都)目黒区特別養護老人ホーム家族連絡会」への参与観察を行った。区内の特養入居者家族への質問紙調査(回収数235通)に関わり、現在報告レポートをまとめる作業を会員とともに行っている。 (B)阪神淡路大震災後に住民のおよそ3分の2が地域外へ転出した、神戸市灘区琵琶町の震災時住民の当事者視点から、「転出すること」「元の土地に戻ること」がどのような個人差を持って体験されたかを追うため、本年度は、以前1998年に行った質問紙調査の回答者を中心に約20名に聞き取り調査を行った。震災以降の転居歴、住居選択の際の判断の条件と自己了解、社会関係や場所の評価の変化などを主に聞き、その成果を含む雑誌論文をまとめた。居住地及び住宅形態の決定には、土地への権利の有無と資金力という主要因とともに、各世帯のライフステージに関わる、子育て・仕事・親子の距離・財産形成などの諸条件が介在していること、また土地への愛着や「リベンジ」としての復興など主観的な意味付けも見られることが、明らかになった。
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