本研究は、国境地域アルザスにおいて、(1)地域文化の担い手の実態と機能について明らかにすること、(2)「地域アイデンティティ」がどのようなものとして捉えられており、どのような主張がなされているのか、その内容と時代による変遷を明らかにすること、そして(3)先行研究の批判的検討と、多文化社会を捉える新たな分析枠組みを提示することを目的としている。 本年度の研究は、先行研究の批判的検討を行うとともに、次年度の本調査に向けて必要な資料の収集ならびに予備調査を中心に実施した。現地調査は、フランスのストラスブール市で11日間、そしてパリ市で8日間と、2度にわたって実施した。 現地調査を実施することにより、図書館や地域運動団体で関連資料の収集を丁寧に行うとともに、地元で発行されている地方新聞の関連記事も収集することができた。また、本研究課題に関連するシンポジウムに参加することにより、研究者やアソシエーションの代表、政治家等の間で交わされていた議論、そしてさまざまな人々の生の声を聞くことができた。 その成果をもとにして、「地域アイデンティティ」をめぐって、これまで、だれによって、どのような主張がなされてきたのか、中央と地方で聞かれる主張の違い、地域運動団体間での差異や、時代ごとの変遷について、分析を進めた。 その一方で、日本の研究者によって行われてきた、主として社会学、歴史学の分野での関連研究を収集し、批判的に検討する作業を進めた。 今後は、収集した資料をさらに詳細に分析するとともに、これまでの研究成果を踏まえて、インタビュー調査の準備を進めていく予定である。
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