本研究は、国境地域アルザスにおいて、(1)地域文化の担い手の実態と機能について明らかにすること、(2)「地域アイデンティティ」がどのようなものとして捉えられており、どのような主張がなされているのか、その内容と時代による変遷を明らかにすること、そして(3)先行研究の批判的検討と、多文化社会を捉える新たな分析枠組みを提示することを目的としている。 本年度の研究は、フランスのアルザス地方で行った調査を中心に実施した。調査は、半構造化インタビューの形式で、地域運動家と行政側の担当者を対象に実施した。現地調査は、2006年8月〜9月にかけて、そして2007年2月に実施した。 インタビュー調査では、地域運動に従事している者の社会的属性や果たしている役割と機能とともに、「地域アイデンティティ」や「アルザス」、さらには「地域」をめぐるそれぞれの主張を明らかにすることを心がけた。インタビューの内容に関しては、帰国後にテープおこしを行い、詳細な分析を進めているところである。 現地調査の際には、大学図書館や市立図書館を中心に関連する諸資料、並びに地元で発行されている地方新聞の関連記事の収集も行った。また地域運動団体でも資料収集を行った。 現在は、地域運動を主導する側の言説とそれを批判的に捉える側の言説との対比を通して、近代化の過程において作り上げられた「国民国家」的思考を再検討する作業を進めている。 これまでの調査で得られた研究の成果は、日本社会学会第79回大会(於:京都・立命館大学)において発表を行った。
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