研究概要 |
本研究では部分集団の不平等と社会全体の不平等の関係を分析するための数理モデルを開発し,モデルから得られた理論的予想を全国調査データにもとづいて検証した.具体的には社会全体を年令別集団や職業別集団に分割し,部分集団の全体に対する人口構成比率や部分集団内不平等が増減したとき,そのような変化が社会全体の不平等度にどのような影響を及ぼすのかを,数理モデルの定式化により特定する.このためには全体不平等度(ジニ係数によって測定する)を部分集団内不平等度の重み付き(部分人口シェアと資源配分量シェア)の和へと分解する必要がある.所得分布に関するジニ係数の分解に関しては,部分集団所得分がそれぞれ対数正規分布に従う場合についてのパラメトリックな分解モデルを研究代表者が定式化した. モデルの詳細は論文Hamada Hiroshi 2005,Parametric Decomposition of the Gini Coefficientとして発表した.パラメトリックな分解モデルにより,各部分集団分布のパラメータ(対数正規分布のμとσおよび部分集団シェア)の変化が全体不平等度に及ぼす影響を数学的に解析することが可能となる.このモデルを数理的解析とコンピュータ・シミュレーションによりさらに詳しく分析して,高齢化が社会全体の不平等度を増加させる条件を調べた.国民生活基礎調査のデータを用いてパラメトリック分解モデルの予測ジニ係数と実測値を比較したところかなり高い相関を持つことが確かめられた.今後はモデルを利用して,ホワイトカラーの世代間再生産性の上昇が全体不平等度に及ぼす影響などを特定する.
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