研究概要 |
今年度は新たに,大学進学率と世代間移動の単純ではない関係を,数理モデルによって定式化する研究を進めた.先行研究としてブードンのISO (Inequality of Social Opportunity)モデル,すなわち「社会的機会の不平等(世代間移動の不平等)」に焦点を当てたシミュレーションが「教育機会の平等化は必ずしも社会移動の不平等度を減少させるわけではない」という分析結果を導出している.ただしその命題はあくまでシミュレーションに基づいた特殊な計算事例である.そこで本研究では,特定の数値に依存しない一般的な命題を導くために,モデルが2次元(学歴と出身階層)2ランク(高と低)の社会からなり,学歴が高い者が優先的に上層に参入できるという単純な仮定を採用した.より厳密には二つの選抜形式をモデル化して分析する.一つは辞書体式順序によって出身階層の影響も考慮する場合と,もう一つは完全に学歴のみを選抜基準とする場合である.前者の仮定を用いたモデルを辞書体式順序モデル,後者の仮定を用いたモデルを学歴主義モデルと呼ぶ.二つのモデルを比較分析することで,教育機会の拡大が世代間上昇移動の閉鎖化を生み出すというパラドキシカルな現象がどのような条件のもとで発生するのかを特定した.またモデルは教育機会の均等化と世代間上昇移動の関係も明らかにした.さらにモデルから理論的な命題を導出するだけではなく,モデルが現実のデータにどの程度フィットしているのかを全国調査データを用いて検証した.この研究成果は既に論文としてまとめ,現在レフェリー付き学会誌に投稿中である.
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