本研究の目的は、アメリカ合衆国(以下、米国と記す)において、AARPをはじめとする様々な高齢者の当事者団体・組織からの要求や異議申し立てとそれに対応する当該政府の政治的判断・選択・交渉を通じて形成される<高齢者医療福祉制度>をめぐる政治を構築主義の視点から読み解きつつ、米国の高齢者はいかにして諸制度を利用し、またそれらが人々の語りによって表象されているのかを明らかにすることを通じて「米国の高齢者医療福祉制度における老いと死をめぐる表象の政治」を解明することである。したがって、本研究は構築主義の視座から米国におけるマクロレベルの「高齢者医療福祉制度をめぐるポリティックス」とミクロレベルの「高齢者のアイデンティティ」を接合する、言うなれば「高齢者医療福祉制度をめぐるミクロ・ポリティックス」とでも呼びうるアプローチからの研究となる。とりわけ、本研究の特色としては、従来のこれまでの社会政策学や社会保障論や経済学の領域での先行諸研究とは異なり、高齢者医療福祉制度をめぐる表象の政治を高齢者のアイデンティティに照準することを通して考察し、そのダイナミズムや機制を別出せんとする点にこそある。 以上のような研究目的から、2年目の平成18年度は、平成17年度に引き続き、米国の高齢者医療福祉制度に対する社会政策に関する膨大な資料分析を渉猟し、先行研究のレビューを行った。その成果は今年度にすでに発表を行っているが、3年目の平成19年度に著書の形で公表する予定である。 なお、平成18年度4月に所属組織を異動したため当初予定していた米国調査は来年度(平成19年度)に実施するよう変更せざるを得なかった。そのため本年度は米国の高齢者医療福祉制度の先行研究をレビュー作業を中心にした文献研究を行った。以上の調査を前提にした広範な先行諸研究の文献研究は幾つかの論文に組み込んだ形で発表を行っているが、前述の通り、来年度には著書の形で発表する。また、平成19年度に米国の老年社会学関連の学会で発表をすると同時に、関連学会の学会誌に投稿を行う。
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