本年度の研究計画の中心は、これまでの調査・研究のまとめにある。この3年間を通して、社会的排除概念の特徴とその限界について考察してきた。特に、社会的排除概念が、機会の平等を標榜する新自由主義的潮流との関係において、どのような特徴をもつものであるのかが、検討するべき中心的な論点の一つであった。 本年度の研究では、社会的排除概念に関する先行研究を踏まえて、イギリスの貧困研究史の中に社会的排除概念を位置づけることを、ひとつのテーマにした。そしてまた、二つ目のテーマとして、イギリス貧困研究史における社会的排除概念の特徴を、イギリスにおいて実際に社会的排除概念に基づいて実施された貧困調査であるPSE調査(Poverty and Social Exclusion Survey)の手法との関係の中で検討することで、社会的排除概念を実際に貧困研究のなかで用いる際の問題点や限界点について考察した。 上記の検討から、社会的排除概念に基づいた貧困問題の検討を行うためには、次の2つの条件を満たすデータが必要であるとの結論に至った。第一に、人々の社会的参加を直接に示す非経済的要素をも含んだ多次元的なデータの必要性。第二に、人々の生活状況の変化を動態的に測ることのできるデータの必要性。ただし、動態分析の条件を満たすためには、クロスセクション・データと時系列データの特徴の両方を備えたデータが望ましいが、PSE調査の検討から、クロスセクション・データであっても、時系列的に用いることができるならば、ある程度の動態分析が可能であると思われる。 本研究は、残念ながら当初予定していた目標、すなわち、社会的排除概念に基づく貧困研究を通して、失業や貧困に関する理論の発展に寄与するところまで行えなかった。先行研究等の収集は行えたので、今後もこのテーマについて考察を続けたく考えている。
|