平成17年度については、次の2点から研究実施計画を進めた。 まず研究計画の第1点目として、先行研究のレビューと争点の明確化を行った。現在までの先行研究におけるソーシャル・インクルージョン対象者における福祉環境についてであるが、大きく分けて1)居住福祉の観点によるもの、2)地域福祉の観点によるものがある。これらには建築学の領域や社会福祉学、社会保障法学のさまざまな領域があるが、現在まで進めているこれらの先行研究の体系的分類および議論の整理を踏まえ、政策動向に関する資料収集・分析を進めていくこととする。 研究計画の第2点目として、ソーシャル・インクルージョン対象者のなかでも、今年度は「ホームレス」に対する居住支援を実施している支援団体への聞き取り調査を実施した。具体的には、1)和歌山県和歌山市における支援団体の取り組み状況、2)東京都における支援団体の取り組み状況、2)千葉県市川市におけるホームレスへの居住支援の状況、に関する聞き取り調査を実施した。和歌山県和歌山市においての居住支援のありかたは、生活保護申請における住居の確保および敷金・礼金の貸付、野宿生活を脱してからの定期的はフォローが主なものとなる。東京都における居住支援のありかたとして、平成16年度から東京都地域生活移行支援事業という事業が実施されており、この事業にはNPOなどの支援団体も積極的に参加している。この事業は別名Housing Firstとも呼ばれ、ホームレスに対する居住支援の新しいあり方として積極的な位置づけがなされている。最後、千葉県市川市においては、市がホームレスに対して自立支援住宅を貸与し、積極的な居住支援を実施している。この居住支援に対しても、市と支援団体が連携しながら、元ホームレスに対する居住生活上の見守りや生活指導などを実施することによりよい居住の方向につなげている。上記のとおり、同じホームレスに対する居住支援であっても実施する地域や自治体の規模により、そのあり方は関係機関との連携に違いがみられる点が明らかになり、今後の居住支援のありかたを検討するのに十分な示唆を得ることが可能となった。
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