本研究では、高等教育に対応した手話通訳技術養成の前段階として、聴覚障害者のニーズに基づく手話通訳モデル映像を作成し、これに基づく通訳学習を可能にするため、以下の研究を行った。 研究1 動画フィードバック手話通訳モデル撮影システムの構成 動画録画装置(SONY RDZ-D70)と合成器(EDIROL V-4)他を組み合わせ、VHSテープ等に録画された起点談話を再生しながら手話通訳を実施し、動画による起点談話映像と手話通訳映像を合成して録画可能なシステムを構成した。通訳中はモニタにより自分の通訳映像をフィードバックすることが可能であり、録画後即座に映像を再生して確認が可能になっている。また、録画媒体にハードディスクを採用したことによりテープの巻き戻しや残量を気にすることなく手軽に繰り返し練習が可能である。さらに手話動画を基にした読み取り通訳にも対応しており、動画に読み取り通訳による音声を重ねて収録することで誤訳箇所の確認等が容易になっている。 研究2 手話通訳サンプル映像の収集および評価 研究1で用いたシステムを利用し、T大学学生を対象とした模擬講義場面の収録ビデオを起点談話として複数の手話通訳サンプルを収集した。通訳はすべて同一の手話通訳者(手話通訳士資格所有)が行い、訳出率をできる限り一定にした上で、異なる手話表現を用いて行った。このうち、より日本語に忠実な訳出を行っているもの(サンプルA)、文章の流れをわかりやすく整理しているもの(サンプルB)、手話として意味の通じやすい文章に意訳しているもの(サンプルC)をそれぞれ1例ずつ選択し、サンプル映像とした。次に収録したサンプル映像を順序を変えてT大学で学ぶ聴覚障害者16名に提示し、それぞれに対する評価を行った。この結果、サンプルCに対する評価が最も高く12名がこの表現による通訳を希望し、総合評価は5段階で4.1を示した。また、手話使用経験の短い対象者2名はいずれもサンプルBを評価しており、サンプルAを高く評価した学生は1名であった。
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