本研究は、社会福祉援助(ソーシャルワーク)サービスを受ける利用者の多様な生を包含する「利用者主権」という観点から、「物語モデル」と呼ばれる援助理論を軸とした実践的研究を行うことを通じて、ソーシャルワーク理論における価値について論究することを目的としている。 ソーシャルワーク理論研究では、そのあり方として方法や政策という視点からは様々に論じられてきたが、「知」として議論されることは少なかった。しかし、標榜する価値や理念の拡散、高度情報化・消費化社会の進行を背景に、善なる行為としてのソーシャルワークへの信頼は相対化され、もはや援助者の優位性は自明ではなくなった。以前なら露呈することのなかった事故や不祥事が次々に発覚しつつあるきょうび、抑もソーシャルワークとはどのような知であったのかといった根元的な自己問直しが必要である。 本年度は、昨年度まとめた学位論文をもとに、修正を加えて出版するための準備に専念した。公開講演会の際の主査・副査他、研究者らからの指摘を受け、テーマと内容について再考した。また、社会福祉現場において、利用者らの「語り」へのアプローチとその分析に傾注することを通して、「物語モデル」の枠組みについて反省的に検討することを試みた。特に、社会的包摂・エンパワーメント・自己決定といった最近盛んに流通する言説が、社会福祉の専門的価値という文脈では日常的援助とどのようにかかわって用いられているのかに着目しつつ考察を深めた。同時に、社会福祉士資格制度の法改正等においての、専門職性や専門職養成をめぐる言説に注意を払いながら、今後の「相談援助業務」を支えるソーシャルワーク理論が何を志向するべきか模索した。日本社会福祉学会の全国大会、政策理論フォーラムの各回、地方大会などに参加し、情報収集に努めた。
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