研究概要 |
マイクロ公正-マクロ公正の観点から,公共事業紛争における対立構造の認知と事業実施過程に対する手続き的公正感,行政に対する公正感が解決可能性認知におよぼす効果を検討した。第一に、事業実施過程に対する手続き的公正感と,紛争当事者である行政と地域住民それぞれに対してマイクロおよびマクロな分配的公正関心を知覚することが,行政に対する全体的な公正感に影響するかを検討した。行政に対する全体的な公正感は、一般市民が紛争当事者の公正関心をどのように知覚するかによって規定されると考えられる。一般市民が事業実施過程の手続き的公正を強く知覚するにつれ行政の全体的公正感も高まるだろう(仮説1)。また公共事業の実施において行政に対して分配的公正関心が知覚されるにつれ,それがマイクロな関心であれマクロな関心であれ,一般市民の行政に対する全体的公正感も高まるだろう(仮説2)。一方,地域住民が分配的公正の観点から事業への反対を主張するような場合には,一般市民はその主張の正当性を認めやすいと考えられる。そのため,住民側に分配的公正関心が知覚されるにつれ,それがマイクロな関心であれマクロな関心であれ,行政に対する全体的公正感は低くなると予想された(仮説3)。さらに行政に対する全体的公正感は公共受容を促進すると考えられることから,対立の解決可能性に関する一般市民の知覚とも正の関連を示すと予想された(仮説4)。全国8市町在住の20歳以上の有権者1,400名を対象に郵送調査を実施し,161名の男性と158名の女性(および不明4名)から回答を得た。手続き的公正感,行政側のマイクロ公正関心とマクロ公正関心に対する回答者の認知,住民側のマイクロ公正関心に対する認知は,行政の全体的公正感を高めた。しかし住民側のマクロ公正関心に対する認知は全体的公正感に有意な影響をおよぼさなかった。さらに,行政の全体的公正感,行政側のマイクロ公正関心認知,住民側のマクロ公正関心認知は対立の解決可能性認知を促進した。一般市民は公共事業紛争を行政のマクロ公正関心と住民のマイクロ公正関心の不一致の観点から認知していることが示唆された。
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