平成18年度は、昨年度に引き続き、計画錯誤の生起過程に対する影響因として、予測時の気分状態、報酬遅延、自己概念活性化の3つをとりあげ検討した。仮説は、予測時の気分が肯定的であるほど、報酬遅延により動機づけが高まるほど、肯定的自己概念が活性化しているほど、実際よりも楽観的な予測を行うというものであった。また、計画錯誤の程度と後続の感情状態との関連を探索的に検討した。 研究3では、実験室実験を行った。報酬遅延の操作と気分状態の操作を行った上で、レポート課題の遂行スケジュールと作成時間に関する予測を行わせた。併せて、実際の遂行スケジュールと作成時間について尋ねた。その結果、遂行スケジュールにおいて報酬遅延の効果が認められ、報酬遅延が行われた条件では、予測を大幅に遅れる遂行を行っていた。他方、気分状態は作成時間予測に影響しており、肯定気分下では実際よりも作成時間を長く予測していた。これらの結果は、動機づけ状態が遂行に影響を及ぼす形で計画錯誤を生じさせうること、気分状態の影響は、具体的事象の予測では認められず、抽象的事象の予測に制限されることを示していた。 研究4では、自尊心の個人差を事前測定した上で、自己の肯定的側面、否定的側面を想起させる操作を行い、試験勉強場面における予測を求めた。併せて予測時の気分状態を測定した。約1ヶ月後、実際の試験勉強時間ならびに気分状態を測定した。その結果、自尊心の個人差にかかわらず、自己の肯定的側面を想起することで計画錯誤の激化効果が認められた。この効果は、予測時の気分状態により媒介されなかった。これらの結果は、自己概念の活性化が計画錯誤の激化に独自の影響を及ぼすことを示唆していた。 すべての研究を通じ、計画錯誤の程度と後続との感情状態との間には明確な関連は見いだされなかった。
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