研究課題
本研究では、従来の言語発達研究では見過ごされてきた幼児の言語運用能力のうち、特に会話をする際の役割配分能力を明らかにすることを目的とした。具体的には、会話に参加する幼児は、相互行為上の役割をどのように取得しているのか、という問題を設定した。幼児が会話場面を相互行為的に組織化する過程を微視的に分析し、家庭における自然場面観察を実施した。平成17年度には4歳男児1名、18年度には4歳男児2名とそれぞれの家族の協力を得て、家庭での観察を実施した。その結果、2つの点が明らかとなった。第一に、一般的に、家庭内の会話において、眼前にいない人同士のあいだで会話が成り立つ。たとえば、異なる部屋にいる人同士が会話することができる。これは、発話の受け手が誰かを特定するリソースとして、視線などのジェスチャーではなく、発話内容が利用されていることを意味する。第二に、眼前に複数の参加者がいて、会話が並行して進められている場合に、視線などのジェスチャーが会話の相手を特定するリソースとして利用される。たとえば、母親に対して2人の子どもが同時に話しかけた場合、顔の向きや視線が、返答の向けられる相手を特定するのに用いられていた。以上の結果は、子どもが言語運用を身につける主要な場である家庭内の会話の特徴を明らかにしたものと言える。このような会話に参加することを通して、どのようにすれば聞き手の注意を引きつけることができるのか、また、どういうときに自分が聞き手として想定されていると理解できるのかといったように、会話の参加役割を判断する基準を幼児が習得するものと思われる。
すべて 2007
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Annual Report (Research and Clinical Center for Child Development, Hokkaido University) 29
ページ: 11-15