研究概要 |
本研究の目的は,日本語話者が英単語のプロソディ(ストレスパタン)にどの程度注目しており,かつそれをリスニングにどのように利用しているかを明らかにすることであった。先行研究は,英語話者が文中からの単語の切り出しに際し,ストレスを語頭の手がかりとして用いていることを示している(Cutler & Norris,1988)。また,Sanders et al.(2002)は,日本語話者も,英語話者と同様にストレスを単語切り出しの手がかりとしていることを報告している。しかし,Sanders et al.(2002)で用いられた課題は,通常のリスニングとは異なる処理を要求するものであり,その結果から日本語話者の英語リスニングについて一般化した結論を下すことはできない。そこで本年度の研究では,より通常のリスニングに近く,かつオンライン性の高い課題として,音声提示された英文中からターゲットの単語を検出する課題を用い,検出に要する時間をストレスが語頭にくるSW語と語尾にくるWS語とで比較することで単語切り出しにおけるストレスの役割について検討した。実験協力者は,英語に特別な経験のない日本語話者17名であった。その結果,SW語はWS語よりも検出時間が有意に短くなっていた。また,この促進はターゲット語の前後に空白を挿入し,単語の切り出しを容易にした場合には見られなかった(交互作用,p<.05)。この結果から,英語に特別な経験のない日本語話者も英語リスニングにおける単語の切り出しにストレスを利用していることが明らかになった。今後は,ストレス利用の程度に関する英語母語話者との差異,およびストレスの利用を促進することがリスニング能力の向上に与える影響の2点の検討が重要になるであろう。なお本年度はこの他,単語認知の神経メカニズムについて検討を行った研究をNeuroReport誌に発表した。
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