本研究はエイジングに伴う身体的・心理的特性の変化について子どもがどのように認識しているのかを検討することを目的とする。高齢者についてのステレオタイプ的な信念を調べた先行研究によると、少なくとも小学校低学年までには高齢者をネガティブに評価する傾向が見られること、身体的特性や知的特性についての方が社会的特性についての評価よりもネガティブであること、高齢者に対するネガティブな評価は加齢とともに強まることが示されている。本研究は、1)幼児でも高齢者の諸特性に対してネガティブに評価する傾向があるかどうか、2)こうした傾向は加齢とともに強まるか、3)こうした傾向は、評価の対象となる特性の種類によって異なるかどうかを検討した。 4歳児、5歳児、大学生36名づつ(男女半々)を対象として、一般に加齢によって衰退すると考えられている身体・知的特性に加えて社会的特性について取り上げ、高齢者と若年成人とではどちらがより望ましくない(望ましい)状態にあると考えるのかを質問した。特性の種類と使用した特性項目は、1)観察可能な身体機能(視力・風邪への耐性)、2)観察可能な身体構造(手のしわの量・頭髪の生えやすさ)、3)観察不可能な身体機能(心臓・肺の働き)、4)観察不可能な身体構造(血管・骨の強度)、5)知的特性(思考力・記憶力)、6)社会的特性(優しさ・社交性)であった。調査の結果、先行研究で確認されているよりもかなり早い時期、4歳児でも高齢者は若年成人より望ましくない状態にあると考える場合が多いこと、こうした傾向は社会的特性よりも身体特性や知的特性で強く見られること、幼児期以降大学生になるまでに弱まる可能性が示唆された。これは大人でも老人に対するステレオタイプは持っているものの、写真で示された人物の様々な特徴を考慮して、柔軟な推論をしているためと思われる。
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