本研究は、比較発達心理学的研究であり、ヒトに特有な母子相互作用の生成過程とその進化的基盤を解明に寄与することを目的としている。ヒト母子とチンパンジー母子との相互交渉の発達を、自然および直接、かつ多面的に比較しようとするものである。特に、母子関係における「葛藤(コンフリクト)」という側面に焦点を当て、ヒト健常児、ヒト障害児、チンパンジー健常児とその母親の間で展開されるコミュニケーション行動を比較する。 平成18年度は、昨年度に引き続き、ビデオ記録をもとに母子相互交渉について行動学的に徹底した定性的記述をおこなった。また、これまでに蓄積したビデオ記録をもとにその過程について詳細に記述した。ヒト乳幼児とその母親、チンパンジー乳幼児とその母親、各3組の母子について、(1)母親のみに物(おもちゃ等)を与えた場面、(2)子どものみに物を与えた場面について各5分間ビデオ記録を月1〜2回ビデオ記録を実施した。また、了解を得たヒト母子については、それぞれの自宅で実験および観察を実施した。上記の手続きで収集したビデオ記録の中から「母子コンフリクト」場面を抽出し、データ分析を継続している。「母子コンフリクト」場面における情動的コミュニケーション行動、特に、乳幼児の「むずかり」や「泣き」といった苦痛な表情や発声に着目し、分析を進めた。こうした情動的コミュニケーション行動から、乳幼児の攻撃性や回避性、指向性の増加や減少、母子関係の変化におけるダイナミズムを捉え、母子それぞれのコンフリクト行動のレパートリーを明らかにした。こうした結果を、平成18年7月にはメルボルンで行われたInternational Society for the Study of Behavioral Developmentで発表した。
|