研究概要 |
保育・教育場面でみられる子どもの語りと子どもの自己の関連をめぐって,文献を検討するとともに,以下の予備的検討を行った。 (1)保育場面の観察調査:幼稚園(1園・公立園)において2005年6月から2006年3月まで,縦断的な参与観察(計18回)を実施した。特に5歳児クラス(1クラス)に焦点をあて,子どもの経験に関する語りの場面に留意しつつ,本研究の焦点である子どもの「自己」がどのように明確化されるかについて検討を実施した。その結果,保育の中では,子どもの自己が1.子ども自身の経験や特徴が言語的に対象化され表現される(語られる)ことで明確化する2.対人的な場面で,あるいは,様々な行事への参加の中で,ふるまいを制御する主体として明確化する3.上の1.で述べた子どもの自己の対象化が,2.で述べた様々なふるまいの主体としての自己の働きと結びつきながら,子どもを他者との関係の中に定位し明確化するなどのことが示唆された。以上より,子どもの語りだけでなく,集団の中の個々の子どものふるまいとの関係の中にそれを位置づけることの重要性が示唆された。 (2)小学校教員への面接調査:小学校で,子ども自身の経験が対象化される(語られる)実践として,スピーチ・日記指導・作文を想定し,これらについて一定以上の実践経験を持つ小学校教員11名に対し,1.これらの実践の具体的な実施過程2.これらの実践の意義についての認識3.子どもの表現から教員が読み取るもの4.発達的な変化や1年の学年を通した変化の認識について半構造的面接を実施した。検討の結果,これらの実践が,特に語られた(書かれた)内容の共有を中心に学級運営上重要な意味を与えられ,同時にその中で子どもの表現が精緻化されることが示唆された。
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