本研究は、幼児期・児童期の子どこが園や学校において参加する「自己の経験を語る」活動を複数のアプローチで検討することを目的としている。本年度は、次の2点を検討した。 (1)児童の日記記録の検討 平成18年度に検討した、3名の協力者の小学校5・6年時の日記の分析のさらなる展開として、学校行事や家族との関係の中の子ども自身についての記述の検討を試みた。分析にあたって、当時の担任教師が、日記の題のヒントとしてクラスの子どもたちに継続して提示していた内容の分析を実施し、日記の中で明確化される子どもの「自己」を捉える参照枠としての利用可能性を検討した。この内容は互いに関連する5つのカテゴリーに大きく整理されるものであり、特に学校での集団的な活動の中での子ども自身をさまざまな観点からとらえる内容が多く含まれた。この枠組みを用いて、日記の一部の分析を試み、その利用可能性と限界を考察した。 (2)保育・教育における子どもの語りの理論的意味づけ 「経験を語る」ことに関する理論的な意味づけを歴史的観点から明らかにするとともに、その中で明らかになる「自己」の在り方を明確にするための理論的考察を行った。前者については、文献の検討によって、綴方教育を中心に、教育実践者の意味づけとその変化を明確化するとともに、当該領域で研究を重ねている教育史の専門家を訪問し、その視点から歴史的な経緯についての専門的な情報提供と研究への助言を得た。後者については、本年度後半「大学教育の国際化推進プログラム」を通した共同研究をもとに、「経験に関する語り」に広く適用できる「呈示自己(presentational self)」の考え方を理論化し、英文論文を作成した。
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