研究概要 |
自己の記憶能力に対する評価,あるいは自己の記憶に関する知識など,自己の記憶に関する認知は「メタ記憶」と呼ばれる.近年の世界的な高齢化に伴い,老年期の教育・学習に焦点があてられるようになると,老年期の学習の仕方,自己の記憶能力の評価などの研究が重視されるようになってきた.そこで,本研究では,高齢者は自分の記憶に関して,どのようなことを知っており,実行しているのかを明らかにすることを目的として調査を行なった. 調査1では,高齢者が自分の記憶をどのように評価して日常生活を過ごしているのかを明らかにするために,65歳から89歳までの高齢者49名(男性23名,女性26名,平均年齢72.67歳)に対して,質問紙調査を行なった.調査の結果,30代の若い頃に比べて,自分の記憶力の低下を感じている者が有意に多かった(X^2(1)=27.94,P<.01).しかしながら,同い年の人と比べて,自分の記憶能力が劣っていると感じている者はほとんどいなかった(X^2(1)=36.36,Pく.01).この結果は,高齢者が自分の記憶能力へ抱く複雑な感情(記憶の自己効力感)を示唆していると考えられる.次に,調査2において,65歳から85歳までの高齢者103名(男性49名,女性54名,平均年齢72.31歳)に対して,心理学で有効と考えられている記憶方略をどのくらい有効とみなしているかの質問紙調査を実施した.その結果,「何度も繰り返す」「覚えにくいものは覚えやすいものに置き換える」「意味を考える」などを日常生活で行なう有効な手段であると認識しており,これらはそれぞれ,心理学におけるリハーサル効果,イメージ効果,処理水準効果と考えられる.高齢者は内的記憶手段として,代表的な記憶方略は理解していると指摘できる.他方,「メモをとる」という外的記憶手段を欠かさず,運動や社交性なども記憶方略としてみなしている傾向もうかがえた.また,調査3として,海外の高齢者に対する記憶・学習の政策に対して知見を広げるため,スウェーデンに行き,認知症プログラム研修に参加し,情報収集を行なった.
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