研究概要 |
本研究の目的は,怒り経験の言語化の構造を明らかにすることによって,効果的な制御方法を探索することにある。そこで本年度はまず,最近1ヶ月のうちに経験した怒り経験について,現在,それをどう受け止めているか(=認知的な言語化の様子)に焦点を当てて尋ね,そこからより効果的な制御の仕方を探索することとした。 茨城県内の大学生24名を対象に,最近1ヶ月の間に感じた怒り経験について,「その経験を,今現在、あなたはどう考えて(どう受け止めて)いますか?」と問い,経験を現在どのように受け止めているかを自由記述させた。この際,記述した内容について感情性,論理性,多角性,公共性評価性の観点から自己評価させた。また,言語表出の習慣および経験について尋ね,さらに,パーソナリティ特性としてアレキシサイミア傾向(TAS-20;小牧ら,2003)を測定した。 分析の結果,経験の言語化内容が感情的だと,現在において怒りを感じやすかった。また,言語化内容の公共性が高いと,当時も現在も,怒りの程度は低かった。一方,記述内容から,諦めることで経験を受容することが最も多く,そのうち,年齢や学年が上だからという理由のものが見受けられた。この次に,他者と気持ちを共有することや,出来事を前向きに考えることで,納得するというものが多かった。さらに,日記習慣があると現在の怒りが強く,言語化内容の公共性が低かった。社会的共有経験があると,言語化内容は感情的であり,評価は低かった。最後に,アレキシサイミア傾向が高いと,言語化内容の評価は高かった。中でも,外的志向傾向が高いと,言語化内容の多様性が低かった。
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