平成17年度は、箱庭療法の「治療的要因」を抽出するベースとなる、制作者の「体験」に関する資料を収集する目的の面接調査を行った。調査の全体的な枠組みは、グランデッドセオリー・アプローチの方法論に則り、データの収集と分析・解釈を同時並行的・有機的に行う視点に立っている。調査協力は、調査内容を十分説明した上で調査参加の自発的意思をもった大学生に依頼した。今年度は、20名の協力者を得ることができた。調査は、心理臨床実践で用いられる箱庭療法の標準的なセットを用意した面接室で、約500個のアイテムの中から、「これだと思うものを一つだけ選んで、この箱の中のここだと思う位置に置いてください」という教示によって行った。アイテムを一つ選び、置くという体験に関して、質問紙形式でたずねるとともに、質問紙の回答についてより詳細に尋ねるインタビューを行った。調査場面は、2台のビデオカメラによって動画で記録し、インタビューについては、ICレコーダーを用いて音声記録をした。音声記録は、文字化して面接記録として保存した。なお、調査は、協力者1名につき2セッションずつ行った。 現在は、文字化した記録をもとに、アイテムを一つ選び、置くという過程で制作者に起きてきた体験から、「治療的体験」と呼びうるものを抽出する作業を行っている。その中で、例えば、これまで前提として捉えられ、あまり主題として論じられることのなかった「砂箱」や「砂」という「箱庭療法のセッティング」が、制作者の体験を治療的体験へと集約させる方向へ体験を強く限定する要因として機能しているさまが、事例を通して描き出せるのではないかという手応えを感じている。来年度は、現在あるデータを分析することを通して、さらなるデータ収集の方向性を見出し、手続きに修正を加えながら、新たにデータの収集を行いながら、箱庭療法の臨床実践事例の中で得られる臨床データをも説明しうる鍵概念を見出すことを目的に研究を進めていく予定である。
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