本年度は、昨年度収集した非臨床事例の箱庭制作者の主観的体験に関する質的データ(一つのミニチュアを選び、置くという調査研究による)を、木下(2003)による修正版グラウンデッドセオリーアプローチ(M-GTA)の手法を頼りに、網羅的に分析した。その結果、箱庭制作者の主観的な体験を記述する大きなカテゴリーとして【砂箱という前提との間で】、【モノとイメージの交錯】、【ミニチュアを置く】の3カテゴリーが得られた。 【砂箱という前提との間で】は、箱庭療法が成立するために不可欠な「砂の入った箱」というセッティングとの間での制作者の体験を記述するカテゴリーであり、砂箱に対しては【自明の前提となる】、【前提に戸惑う】、【前提に馴染む】という体験のあり方が、また砂に対しては、【感覚される砂】という体験のあり方が抽出された。 【モノとイメージの交錯】は、砂や箱やミニチュアといった物理的な存在に制作者のイメージが交錯することで、制作者の体験の中で、単なるモノでありながら、同時に単なるモノではなくなるという体験を記述するカテゴリーであり、【ミニチュアが異彩を放つ】、【モノとイメージのはざまを垣間見る】、【モノをアニメイトする】、【時間の流れを生み出す】、【箱庭の世界へ自分が入る】、【砂箱空間のイメージ体験】の6つの体験のあり方が抽出された。 【ミニチュアを置く】は、選んだミニチュアを砂箱の中へ置くことにまつまわる体験を記述するカテゴリーであり、【「ここだ」という位置が直感される】、【「ここではない」と思う位置から決まる】、【「どこだ?」と迷う】、【「どこでもいい」】の4つの切り口から検討することが可能であった。 以上の分析によって、箱庭制作者の主観的体験に関するベースデータを得たことになる。これを基に、臨床事例におけるクライエントの箱庭制作体験と継続的比較分析を行い、箱庭の「治療的要因」を探っていくことが来年度の課題として残された。
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