研究概要 |
申請者は,認知バイアスの被害観念維持への関与を質問紙にて検討(第1段階),認知バイアスの被害観念維持への関与を実験にて検討(第2段階),認知バイアスの修正と介入法の有効性の検討(第3段階)を通して被害観念維持のメカニズムを解明し被害観念の予防・介入法を探る. 本年度は第1段階(調査研究)と第2段階(実験研究)を実施した. 第1段階:認知バイアスの被害観念維持への関与の検討2(質問紙調査) 対学生141名(男性103名,女性38名,平均年齢19.58±1.18歳)を対象に,被害観念への対処方略について,対処法略の柔軟性という視点から調査を行なった.対処法略の柔軟性とは,最初に用いた対処法略によって望むような結果が得られなかったときに,どのように対処法略を変更させるのかということを意味する.この場合は,最初に用いた対処法略とは異なるタイプの対処法略を用いることが柔軟であると考えられる.本研究の結果から,被害観念を持つ人は,そうでない人よりもネガティブな対人的な対処法略(例:無視するなど)を用いやすいことがわかった.加えて,最初に用いた対処法略によって望むような結果が得られないときには,よりポジティブな対人的な対処法略(例:積極的に話をするようにしたなど)が減少することがわかった.つまり,被害観念に対しては,よりネガティブな対処法略を用いやすく,またその対処法略がうまくいかないときには次に用いる対処法略がよりネガティブなものに偏ってしまう.このような対処法略の偏りが,被害観念の維持に関与している可能性が示唆された. 第2段階:認知バイアスの被害観念維持への関与の検討(実験) 第2段階では,表情認知におけるバイアスと被害観念との関連を検討するために,パーソナルコンピューターによって怒り,喜び,恐怖,などの6種類の基本表情を提示し,大学生10名(男性8名,女性2名,平均年齢18.4±.70歳)の表情を認識するまでの反応時間を測定した.結果,被害観念を持つ群では,恐怖表情において認知するまでの反応時間に遅れがみられた.よって,被害観念を強く持つ人にある特定の表情に関する認知バイアスが存在する可能性が示唆された.
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