研究概要 |
本年度においては,全国39都道府県で開催されたひきこもり親の会において実施した調査と東京都,新潟県,京都府において実施した個別のインタビュー調査が行われた. 調査研究においては,ひきこもり状態にある人(以下,本人),及びその家族(以下,家族)の相談機関の利用意欲,利用する理由,利用しない理由について回答を求めた.603家族から得られた回答を解析した結果,本人に関しては相談機関の利用に全く興味のない人が最も多いのに対し,家族に関しては相談機関を利用している人が最も多くの割合を占めていることが明らかにされた.利用する理由,利用しない理由のいずれにおいても,最も重視されているのは効果があるか否かという点であり,全体の約3割を占めていた. 個別のインタビュー調査においては,相談機関を利用するに至った本人7名を対象に調査を実施し,どのような経緯で相談機関を利用するに至ったかについてインタビューを行った.その結果,相談機関に関する情報の不足,相談機関における対人関係への恐怖,相談機関に対する偏見などが相談機関利用にとっての主な障害となっていることが明らかにされた.そうした相談機関利用の障害をどのように克服したかについては,症状の悪化による切迫感,家族の説得,節目となる年齢になること,入院治療の利用などがあげられた.また,相談機関を継続的に利用する理由としては,本人のニーズに合っていること,利用の自由度の高い場所のあることなどが明らかにされた. 本年度の研究から,相談機関利用の障害と現状改善への欲求とのバランスで相談機関を利用するか否か判断している可能性が示された.また継続的に利用するためには,本人のニーズに合わせた対人関係をあまり必要としないような関わりから開始するのが有効ではないかと推測される. 今後,本年度の調査によって明らかにされた知見をもとに構造化面接を作成し,本人の受療に関わる要因をさらに検討していく.また,そうした構造化面接の結果をふまえて家族を介しての受療行動促進のための認知行動療法プログラムを作成する予定である.
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