研究概要 |
本年度においては,ひきこもり状態にある人(以下,本人)を対象に受療に至るまでの経緯に関して個別インタビュー調査と質問紙調査を行った.また,本人を対象に集団認知行動療法を実施し,認知行動療法の適用可能性について検討した.さらに,全国30都道府県で開催されたひきこもり親の会において調査を実施し,ひきこもり状態にある人の家族(以下,家族)の支援ニーズについて検討を加えた. 本人を対象とした調査では,インタビュー調査では6名を,質問紙調査では53名を対象とした.本人を対象とした調査から,本人が人間関係を回避していることが示された.人間関係の回避は,相談機関の利用においても大きな障害となっていた.本人を対象とした支援では,本人が安心できる人間関係を保障することの重要性が示された.また本人を対象とした集団認知行動療法では,発達障害,統合失調症を除いた場合,集団認知行動療法によって対人不安症状などが改善するものと考えられた. 家族を対象とした調査研究においては,331家族から得られた回答を解析した.調査においては,家族の支援ニーズと実際の支援の利用状況について調査が行われた.調査の結果,家族は本人への対応方法を学べる場所,心理専門家によるカウンセリング,本人が家庭外で活動できるための「居場所」を求めていることが示された.しかし,支援ニーズの高さと比較して実際に利用している割合は低く,支援を希望しながらも支援が利用できていないという実情が示された.その傾向は特に心理専門家によるカウンセリング,経済的な支援,訪問支援,非対面式の支援において顕著であった.平成17年度から3年間に蓄積された知見をもとに,今後は家族を対象とした本人の受療行動促進,本人を対象とした認知行動療法の効用と限界,ひきこもり状態に対する臨床心理的地域援助のあり方についてさらに検討を加えていく.
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