性の認知は、ヒトを含めた動物の繁殖成功において重要である。ヒトに系統的に近縁なサルは、優れた視覚を持っており、体サイズ・顔・性器などの形態的特徴において、種によって様々な程度の性的二型を示す。このことから、サルがヒト同様に視覚的手がかりを元に性弁別をおこない、他個体の形態的特徴にもとづいた配偶者の選択をおこなっている可能性が示唆される。また、ヒトやサルの性周期と性ホルモンレベルに関連があることは多くの研究が示しているが、性ホルモンが性認知に果たす役割については充分に解明されていない。本研究では、マカクザルを対象として、視覚的に呈示された同種他個体の性の認知について検討する。性の弁別と選好性の特性について検討し、それらに対する性周期および性ホルモンの影響について明らかにする。 初年度である本年度は、行動実験のための装置の準備、サルに呈示する刺激映像の収集、およびサルの馴致・訓練をおこなった。装置は、反応記録および刺激呈示用のタッチパネル付モニタを装着したサル用実験箱(オペラント箱)、および制御用コンピュータとソフトウェアを作成・準備した。様々な年齢・性別のサルの映像をビデオカメラで撮影し、刺激映像の作成をおこなった。実験装置等の準備が完了した後に、2頭のニホンザルを被験体として視覚性の性弁別課題の訓練を開始した。課題は、映像として呈示される同種他個体の性別にもとづいて、2つのボタンを押し分けるものであり、現在一頭のサルは訓練がほぼ完了した段階である。サルが課題を習得した後に、新規個体の映像を用いた汎化テストを通して、映像にもとづいた性弁別の可能性について検討する。また、サルの映像を一部隠蔽した刺激を用いて、どの身体部位が視覚性の性弁別に貢献するのか検討する予定である。
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