・昨年度改良を行った運転シミュレーションシステム(DS)を用いて、仮想空間内の市街地を走行しつつ、前方視野の中のいずれかの場所にランダムにあらわれる小さな視覚刺激を検出するという実験を行った。さらに、聴覚的に提示される数字を記憶していき、合図が提示された時には直前に提示された数字から指定された個数だけ遡って、その個数だけ前に提示された数字を答えるという言語的記憶課題を副次課題として用いた。これにより、車載情報機器から音声で提供される情報を処理しながら運転するという、注意転導を引き起こす可能性のある状況を作り出した。この実験の結果、言語的記憶課題を提示すると視覚刺激の検出成績が有意に低下することと、主観的なメンタルワークロードも高まることが示された。以上の成果は論文で公表した。また、認知的負荷が高い条件での各実験参加者の反応の差違についても検討を行った。 ・DSによる長時間運転を行った場合の行動の変化や心的負荷の変化を測定する実験の計画と準備を行い、来年度の本格的な実施に向けた試験を行った。 ・昨年度の研究の中で作成した32項目でなる日常的注意経験質問紙(質問紙については論文を投稿中である)と、課題パフォーマンスの関連性について検討を行った。課題としては、中心視野で図形の弁別を行い、標的となる図形が出現したら反応する課題を行うと同時に、周辺視野に散在する小さな四角形が短時間円形に変化するのを検出し、気づいたらボタンを押して反応するという課題を用いた(有効視野課題)。さらに、言語的処理または視覚的・空間的処理を必要とする2種類の記憶課題のいずれかを組み合わせて行う高心的負荷条件も設定した。結果として、質問紙により測定される日常的な注意経験の違いによって有効視野課題の成績が異なっていることが示され、注意機能の個人差を表現するためのツールとしての日常的注意経験質問紙の有効性が確認された。
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