研究概要 |
飲食物の摂取後に下痢や嘔吐を経験すると、その飲食物の味を嫌うようになる。これを味覚嫌悪学習(conditioned taste aversion, CTA)という。CTAの脳内メカニズムは十分に解明されていない。近年、脳内報酬系といわれる神経系が味覚嗜好性(味のおいしさ・まずさ)に関与することが明らかになりつつある。そこで本研究では脳内報酬系の一部位である腹側淡蒼球のCTAの想起における役割について検討した。これまでに既に、腹側淡蒼球のCTAの想起への関与を示唆する結果は得ていたが、データとしては不十分であった。そこで本年度は、まず、腹側淡蒼球へ抑制性受容体であるGABA_Aの阻害薬を様々な用量で局所的に注入し、条件刺激の摂取量を調べたところ、用量依存的に摂取量が変化することを明らかにした。また、そのGABA_A受容体の阻害薬を注入すると、条件刺激に対する嫌悪性の反応が減少し、嗜好性の反応が増加した。これらの結果から、腹側淡蒼球のGABA_A受容体はCTAの想起過程において、条件刺激の摂取行動に関与していることが示唆された。またその摂取行動は、腹側淡蒼球のGABA_A受容体を介して条件刺激に対する嗜好性および嫌悪性の反応の表出をコントロールすることによって、調節されている可能性が示された。これらの結果について、日本神経科学大会とヨーロッパ心理学会でポスター発表を行い、日本味と匂学会と日本生理学会大会で口頭発表を行った。結果をまとめた英語論文を執筆中である。
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