研究概要 |
飲食物の摂取後に下痢や嘔吐を経験すると、その飲食物の味を嫌うようになる。これを味覚嫌悪学習(conditioned taste aversion, CTA)という。この学習は味刺激を条件刺激(conditioned stimulus, CS)、内臓不快感を無条件刺激(unconditioned stimulus, US)とする連合学習である。CTAの脳内メカニズムは十分に解明されていない。近年、脳内報酬系といわれる神経系が味覚嗜好性(味のおいしさ・まずさ)に関与することが明らかになりつつある。そこで本研究では脳内報酬系の一部位である腹側淡蒼球のCTAの想起における役割について検討した。平成17年度終了時点までで、ラットの腹側淡蒼球にGABA_A受容体阻害薬であるbicucullineを局所注入すると、CSの摂取量が増加することを明らかにしていた。平成18年度は、この摂取量の増加が、CSの嗜好性が変化したために起こったのかどうかを確かめるための実験を行った。ラットのCSに対する嗜好性を調べる方法として一般的な、taste reactivity testを用いた。この方法では、ラットの口腔内に味溶液を呈示し、そのときの反応を記録する。好きな味あるいは嫌いな味に対してラットが示す反応は、先行研究によって分類されている。本研究ではその分類に基づいて、bicuculline注入後のCS呈示によるラットの行動を解析した。その結果、通常であれば、CSに対してラットは嫌悪性の反応を示すのに対し、bicucullineを注入すると、嫌悪性の反応が消失し、嗜好性の反応が生じるようになった。以上の結果から、CTAの成立によるCSに対する味覚嗜好性の変化には、腹側淡蒼球のGABA系が関与することが示唆された。現在、これまでの研究成果を英語論文としてまとめ、投稿中である。
|