研究概要 |
本研究では,高速逐次視覚呈示法を使って,知覚的構えが意識的な対象認知に及ぼす影響を調べた.高速逐次視覚呈示法では,短時間内(10文字/秒)に視覚刺激を次々に同じ場所に呈示する.このとき,標的となる文字を逐次呈示系列に含めておき,被験者はこの標的刺激を同定する.一般に,標的が2つ呈示される場合は,標的どうしの呈示時間間隔が短いとき,第1標的は正確に同定できるが,第2標的は意識に上らず,見落とされることが非常に多い(注意の瞬き現象).本研究では,この現象を用いて,知覚的構えが意識的知覚に及ぼす影響を調べ,以下の2つの成果を得た. 1.同時処理できる対象の個数の限界は2個よりも多いことを発見 高速知事視覚呈示法で測られる処理の限界は,従来2個であると言われてきた.しかし,本研究では,逐次呈示系列を2つに増やして注意の瞬き現象を観察したところ,同時に4個まで処理することが可能であることがわかった.従来の研究で処理の限界であると言われてきた2個という値は,逐次呈示系列が1つであったためといえる.この知見は従来の注意の瞬き現象を説明するモデルでは想定していなかった結果であり,意識的知覚の限界に関するモデルの再構築を促す. 2.知覚的構えの及ぶ範囲は空間的に同じ位置に限定される 高速逐次視覚呈示法で2つの標的を呈示するとき,それらの標的が連続して呈示されると,見落としが回避される.従来の研究では,この見落とし回避現象がどのような条件で生起するかという点について共通の理解が得られていなかった.本研究では,2標的の呈示位置,および逐次呈示する系列の数,それらの空間的距離を系統的に操作して,先行研究で見落とし回避が得られなかった原因を突き止めた.先行研究で見落とし回避が得られなかったのは,標的検出に位置や文字が何であるかという情報以外の属性(輝度差)があったせいであった.
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