研究概要 |
本研究では,意識的知覚を支える主要認知機能の一つである心的構えとその制御方略を調べた.意識的知覚が損なわれる例として知られる注意の瞬き(attentional blink)現象は従来,時間的に先行して呈示される第1標的に注意資源が占有されるため,その後に呈示される第1標的の知覚が損なわれると考えられてきた.本研究では,3つの標的を連続して呈示し,第3標的の知覚成績が第2標的よりも高いことを示し,従来の説明を否定した.本研究では,第1標的処理のために一時的に知覚的構えが制御不能になり,その後に呈示される刺激が非意図的に構えを変えるという代案を提案した(研究発表11.2).また,従来の研究で提案されてきた,記憶符号化時のボトルネックによる第2標的のマスキングに加えて,第1標的が呈示される前の知覚的構えの抑制と課題・切り替えも関与していることがわかった(研究発表11.1).第1標的が呈示される前は,知覚システムは逐次呈示される妨害刺激を抑制する様式を取り,第1刺激が呈示された時点でその様式を捨て,第1標的を受け入れる様式に切り替える働きをしていると考えられる.研究発表11.1はこの切り替えに関わる時間的コストがあることを明らかにした.加えて,こうした意識的知覚の欠如としての見落としは常に起こるわけではないことを示した.これまで,短い時間で2つの標的を検出するとき,2つめの標的は見落とされやすいことがわかっているが,観察者が知覚的構えを維持したまま2つの標的が時間的に連続して呈示される場合は見落としが激減する(見落とし回避).研究発表11.3は,この現象を知覚的構えの指標として利用し,同時に2箇所の位置に注意の構えを向けることができることを示した.(731字)
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