本研究の目的は、自己運動知覚における感覚情報および運動制御情報の統合過程を検討することにより、われわれの環境への適応に必要不可欠な自己身体の空間定位の心理学メカニズムを明らかにすることにある。これまでの一連の検討により、より効果的に自己運動知覚を引き起こすことの可能な感覚情報の提示様式に関し、その最適設定を導出することに成功している。今年度は、本研究計画の主たる目的である、自己運動知覚における感覚情報と運動制御情報の統合の様式を検討するために、自己進行方向判断課題に及ぼす被験者の自発的注意分布の効果を測定する心理実験を実施した。実験の結果、視覚刺激に誘発された空間的注意シフトが自己進行方向知覚に大きな影響を及ぼすことが示され、視覚誘導性自己運動の方向が、注意の焦点に向けて大きなバイアスを受けることが明らかとなった。さらに、自己運動知覚と自発的注意分布は、相互に影響を及ぼしあうことが示され、自己運動方向に注意を向けやすくなり、進行方向近傍では視覚刺激の単純検出等の反応時間が短縮されることが明らかとなった。これらの結果は、自己運動知覚の心理メカニズム解明のみならず、自動車場面での見落としの発生機序の理解といった課題にも応用可能なものである。今後は、観察者の身体全体の自発的な運動の場面において、感覚情報と運動制御情報が自己運動知覚にどのような役割を果たすのかを分析し、自己運動知覚に関する心理学的モデルを構築することを目指す。
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