本研究は、有限状態文法として記述可能な歌を生成することで知られるジュウシマツにおいて、系列生成能力が歌に特異的なものか、あるいは歌以外の一般的な反応にも、ヒトと比較可能な論理性や抽象性を有する系列生成を可能にするようなメカニズムがあるかどうか、条件づけによる行動実験を行い、さらにそのメカニズムの脳内責任部位を特定するための脳損傷実験につなげることを目的とした。本年度は、昨年度に開発された5つの反応キーを持つ系列反応訓練のための実験装置を用い、本訓練を実施した。ジュウシマツの歌における要素とその文法構造とに対応した系列行動を生成させるため、3つの刺激項目に対して一定の順序で系列反応を行うように訓練した。2条件が設けられ、一方はランダムな系列反応を訓練され(例えば3-2-4、数字は反応位置を示す)、もう一方は規則性を持った系列反応(例えば2-4-2、第3項目が第1項目を繰り返す)を、それぞれ1例ずつ訓練された。サルやヒトの認知神経科学的研究において用いられてきている系列反応時間(Serial reaction time)を指標として評価したところ、両条件においても、訓練に伴い系列反応時間が減少していったため、ジュウシマツにおいて歌以外の系列反応が学習可能であることが示された。反応時間の減少が安定した後、以下の3つのテストを行つた:1)獲得された系列反応は訓練系列に限定されているかどうか(ランダムテスト)、2)規則性のある系列を訓練することにより、刺激特異的でない抽象的な構造が学習されたかどうか(抽象構造テスト)、3)獲得された反応は運動パターンに特異的なものか(運動学習テスト)。この結果、獲得された反応は訓練系列に限定されており、抽象構造や運動学習自体が般化されることはなかった。この理由として、訓練例の不足が考えられたため、例を1から5に増やし、再訓練し、同様なテストを行ったところ、抽象構造の転移を示唆する結果が得られ、これにより脳損傷の効果を検討するための実験パラダイムを確立できた。
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