今年度は課題に即して以下の調査・研究を行った。 第一に、教職の女性化の過程を検討することによって、小学校における教師のジェンダー構造の歴史的な基盤の解明を試みた。明らかになったのは以下の事実である。近代日本における女性教師の増加は、欧米諸国、とりわけアメリカの初等教育を模範として企図され、1900年前後に急激な実現をみた。その際に女性化を正当化し推進した論理は、学校の教師を家庭の母親になぞらえることで女性を理想の教師として表象するものだった。1910年代には女性教師の急増を受けた「女教員問題」の議論において、小学校における女性教師のジェンダーが構築された。一方で母親や妻になぞらえられた彼女らには、女児や幼児の教育、裁縫や家事の担当、洗濯や接待といった雑事の遂行が割り振られている。その結果、高学年の男子の教育からは排除されることとなった。しかしもう一方で、女性教師の急増を初等教育の危機として感受した論者は、女性教師に知的な「修養」を求めている。女性教師は学校の仕事と家庭の仕事の二重負担を背負わされていたばかりでなく、学校においても男性並みの教師であることと女性的な役割をこなすことの双方を求められたといえよう。なお、現在でも小学校の低学年や家庭科の担任には女性が多く、1910年代に形成された性役割分担の継続を示唆している。この研究の成果は論文として発表した。 第二に、小学校の低学年の担任は女性が圧倒的に多いという事実に着目し、そのジェンダー構造を解明するために、男性教師で継続的に低学年を担当したことのある方にインタビューを行った。具体的には、1、2年生を複数回担任したことのある3名の男性教師に、そのようなキャリア選択を行った経緯やその際の経験を時系列に即して自由に語ってもらった。現在のところ、男性教師の配置に関して、低学年を避けるというより高学年に必要と考えられていること、女性教師が負担の大きい高学年を避ける傾向にあること、低学年の経験が教師としての成長を促していることなどが明らかになっている。成果については論文にまとめて学会誌に投稿する予定である。 第三に、中学校における女性教師のキャリアを解明する手がかりとして、1名の女性教師にライフヒストリーインタビューを行った。現在、それに基づいて研究のデザインを行っている。
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