今年度は課題に即して以下のような調査研究を行った。 小学校における女性教師のキャリアの特徴をジェンダーの視点から検討するに際して、低学年の担任は女性が多い事実に着目し、その背景に存している教師文化の構造の解明を試みた。その際に、まず男性教師の学年配置の経験を検討した。男性教師には高学年を担任しつつ管理職への道を歩むという一般的なキャリアコースが存在するため、学年配置の力学を構造的に捉えることが容易である。それに対して女性教師のキャリアは家庭の状況など個人的な事情の影響を受けやすい。そこで小学校において教師のキャリアを構成する学年配置の力学を、男性教師のキャリアを通して明らかにした上で、より複雑な女性教師のキャリアの解明を試みることとした。 多様な年齢と経歴の男性教師10名に、キャリアの経験を自由に語ってもらうインタビューを行った。とりわけ学年配置とその実践を、低学年担任の経験を中心に語ってもらった。その結果次のことが明らかになった。第一に、男性教師は子どもの荒れへの対応を期待されて高学年に配置されることが多い。第二に、家庭責任を負う女性教師を時間的にゆとりのある低学年に配置した結果、多忙な高学年に男性が配置されやすい。第三に、高学年が脚光を浴びる「学校の顔」であるのに対して、低学年の教育は周縁化される危険を有している。第四に、男性教師は女性化された低学年教育の世界を、他クラスと歩調をあわせることが要求されるもの、生活習慣の形成や学習の基礎の習得が重視されるものとして経験していた。第五に、低学年を繰り返し担任した先生たちは、低学年の子どもの想像力や身体に着目しつつ、そのような既存の低学年教育のイメージを超える教育実践に挑戦していた。 以上の結果は論文としてまとめて投稿予定である。
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