1.金銭的報償を用いた教員の資質向上策が、1980年代以降の合衆国でどのように展開したのか教育改革全体の課題との関連を明らかにした。そして、教員の質量両面の確保という課題は1980年代以降一貫していること、そのために金銭的報償というインセンティブ策は沈静化しつつあるとはいえ完全に収束したわけではないこと、教師の資質よりも生徒の学力というアウトカムに焦点が移行しつつあること、成果主義はますます強化されつつあること、を明らかにした(論文1)。 2.こうした改革動向は理論レベルでは、素朴な成果主義への批判をくぐりぬけて、教師個人から学校全体の成果へと重点の移行を促したこと、それによって免許更新制を含む教師の資質向上策についての実質的な議論を可能にしたこととともに、民間部門ベースの経営組織論が教育界に浸透しつつあること、を明らかにした(論文2)。 3.免許更新制における免許授与時の教職適格性の判定は新たな国家的基準を要請するものであること、しかしながら免許更新時の適格性の判定は身分保障や単位認定の関係上、形式的な手続にならざるをえないこと、そのため更新による資質向上を図るには研修内容の多様性と条件整備が必要であること、を指摘した(論文3)。 4.金銭的報償による教員の資質向上策を維持・導入しているコロラド州の二つの学区(デンバー、ダグラス)を訪問し、聞き取り調査を行うとともに、金銭的報償を廃止して免許更新制に教員の資質向上を期待しているオハイオ州の学区(シンシナティ)と州教育省で聞き取り調査を行い、実態把握に取り組んだ。免許政策は州レベル、給与政策は学区レベルの政策だが、教師の選択を可能にする柔軟性と、減点主義ではない方針をうちだすことが制度に対する教師の信頼と納得を獲得する重要な要素であることが明らかとなった。
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