開発援助分野における実務経験者による大学教育のニーズおよび現状を把握するため、同分野の実務経験者の多い国際機関の職員および国内大学側の受入体制について調査を行った。 国際機関の職員については、国内大学における教員としての活動を想定しているため「邦人」の職員を対象としてアンケートを実施し、48件の有効回答を得た。基本的に、日本の大学において講義等を担当したいという希望は強く、1)自身の経験の還元を通じて将来の国際機関で活躍する人材の質および量を高めることや、2)自身の(国際機関における)キャリアアップにつながること、3)自身の国際機関等における経験を研究という形で体系化・理論化する時間や場が欲しいこと、などが理由として挙げられた。他方、一時帰国等を通じて集中講義を担当するといった場合は、国際機関における職務との責務相反や兼業の取り扱いに関する問題が指摘された。 また、国際機関出身者で大学において講義を担当している者にヒアリングをしたところ、教育研究の内容については国際機関における職務経験をベースとするため特に不自由を感じることはないが、実務に即した講義は情報の陳腐化が急速であるため、定期的に実務に戻ることのできるような制度設計が必要であるとのコメントがあった。 他方、受入母体となる国内大学については国際関係や開発援助の分野を担当できる教員についてのニーズは高く、特に国際機関等の実務経験者が求められる傾向はあるものの、実際の登用にあたっては人的なつながりに依存する場合が多い。これはアカデミックな経歴を有さないものの業績評価が難しいことに起因するようである。実際、登用後の昇進についても同様の課題があると国際機関出身者から指摘された。 今後、大学と他機関間の人事の流動性や学内における業績評価等、実務経験者による大学における教育活動を効果的なものとするための制度設計の検討が望まれる。
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