本研究は、戦間期の日本において新中間層が形成した教育文化を、彼ら/彼女らが数多く居住した郊外地域を対象として分析することを課題としている。そして、その教育文化においては、教育の公共性がどのように定位されているのかを考察することも、副次的な課題として設定している。 研究期間の二年目に当たる今年度は、昨年度・今年度収集した都市計画、日本近代教育史、社会史、文化史、公共哲学、戦間期の教育雑誌などの史資料を、教育の公共性の観点から分析するために、第一に研究協力者となっている人文・社会科学振興プロジェクト研究事業「グローバル化時代における市民性の教育」への参加を通じて、教育の公共性について他領域の研究者からの知見や助言に学び、公共哲学の議論・課題に対する研究視座や立論方法を獲得すること、第二に所員となっている成城大学民俗学研究所の共同研究である「『共同体』と『地域』という概念の再検討」に参加し、地域と共同体の関係をどのように捉えることができるのかに関して、他領域の研究者からの知見や助言に学び、都市における共同性を巡る研究視座や立論方法を獲得することという二つの課題に取り組んだ。 二つの課題に取り組む過程で戦間期新中間層の教育文化は、子どもを地域社会の子どもではなく、あくまでも私有の対象としてのわが子と捉える私事化意識を増幅させ、公共の営みとして教育を位置づける認識が希薄なものとなっていたこと、そしてその教育文化が現代日本の教育文化の基底にも存在していること、したがって戦間期新中間層が郊外地域に形成した教育文化を分析することによって、現行の教育改革に対して活発になされている議論に、改革の進路を見通すことを可能にする歴史的論拠を提供できるという仮説を得ることができた。その仮説が正しいのかどうか、次年度の研究において探究したい。
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