本年度は、全国インディアン協会が1972年12月に、政策案『インディアン教育はインディアンの手で』をカナダ政府に提出するまでに、教育自治を可能とする制度的・実態的基盤がどのように形成されたのかを明らかにすることを目的に、以下の調査・分析を行った。 1)ブリティッシュ・コロンビア大学附属図書館にて、ブリティッシュ・コロンビア州インディアン問題諮問委員会の報告書(1953-1972)、Globe and Mail紙の先住民族政策関係記事、先住民族自治体の教育計画書、先住民族教育に関する研究論文を収集した。 2)カナダ政府が第2次世界大戦以後、先住民族自治体に学校制度をどのように導入・展開していったのかについて、先住民族政策との関わりに注目しながら、カナダ政府が「インディアン政策に関する政府声明」を発表する1969年までを対象時期として跡付けた。この作業によって、カナダ政府の政策は、先住民族にカナダ市民としての「自己決定」と「自己責任」を迫るものであり、その意味においての「自治体制」を形成しようとするものであったこと、先住民族自治体の自律性を無視して行われた「自己決定」・「自己責任」を求める「自治体制」の整備は、整備しようとすればするほど、先住民族の「自治」を脅かし、より一層の「自治体制」のための施策を展開せねばならないという矛盾を抱えたものであったことが明らかとなった。 3)先住民族教育自治体制を質的に検討する分析視角を得ることを目的に、現在の教育自治体制を「子どもの人権」の保障という観点から分析した。その結果、カナダ政府、州政府のいずれも、「子どもの人権」保障の実現のために教育自治が不可欠であると考え、教育自治を尊重した教育制度の整備を、先住民族と協議しながらすすめていること、教育実践においては、単に人権を侵害された子どもだけでなく、その子どもの属する地域社会をも「癒す」ことを目指していることが明らかとなった。
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