家族会を中心とした引きこもり経験者への社会参加支援について、3年間の研究を総括した。まず、引きこもりに関する個々の家族の経験に立ち戻り、補足的なインタビュー調査を行いながら記述した。従来の引きこもり研究や支援は、子ども(若者)本人を主要な対象とする一方、家族にとっての経験の様相は十分に知られていない。本研究では、「子ども」と「大人」の境界に位置する曖昧さが、家族にとって「引きこもり」問題の困難さに大きく関わっていることが示唆された。これに対して、家族は自らの人生計画や親役割の再構築によって対処している。終わりのない負担に結びつく「子育て」から、子どもに対する「ケア」へと親役割を位置づけ直すこと、自立の定義を変更して家庭内における子どもの役割を積極的に認めることなどがその例である。 また、支援団体による対応法の意識的な伝授が、家族による経験の書き換えを下支えしていることが確かめられた。家族の支援において求められる組織的条件についても、支援団体を対象とした量的調査やグループ・インタビューから、ある程度明らかになっている。 他方では、引きこもりのさらなる長期化や、隣接する若者問題の深刻化もみられる。医療や福祉制度を視野に入れながら、家族の経験を把握することが今後の課題である。 なお、本研究の全体的な成果を論文「『ひきこもり』と家族の経験-子どもの『受容』と『自立』の再組織化」として執筆した。同論文は、2008年9月にミネルヴァ書房より刊行予定の書籍に収録される。同書は、報告者を含む4人の編者および8人の執筆者が、「ひきこもり」に関する社会学的研究の成果をまとめたものである。
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